メロディを生き生きと弾くために


メロディを生き生きと弾くための鍵は、テンポとリズムと拍節の関係にあります。

その前に・・・まず日本語について記します。
日本語は、音の高低で意味をなします。(橋と箸の違いのように)
また、日本語は母音の言葉です。
西洋の言葉は子音であり、強弱で意味をなします。

日本古来の邦楽には、伝統的に強拍・弱拍の概念がないことからも、日本語由来の音楽であるからと説明ができます。

同じ曲なのに、日本人と西洋人との演奏で、何かが違う、と感じたことはありませんか?
拍子・リズム・拍節について注意深く聞いてみると、何が違うのかがお分かりになるでしょう。

私達日本人は、演奏において努めて強拍・拍節について意識する必要があるのです。

日本語は西洋の言葉に比べて平らです。
だから、外国人が話す日本語には、アクセントが多くつくのです。

強拍とは、4拍子なら1拍目が強拍、2拍目が弱拍、3拍目が中強拍、4拍目が弱拍です。
この「強拍」の「強」の漢字から、アクセントをつけることと混同されているように思います。
端的に適当な言葉が見あたらないのですが、丁寧に、大事に弾くのが強拍です。

そこに、拍節との関係が見落とされています。
ただ単純に強拍は読んで字のごとくただ強くするだけの意味として、一般に浸透しているように思います。

拍節、とは4分音符のなかにも、8分音符なら2つ、16音符なら4つ音が刻まれていることです。
1拍のなかにも、細かく音が刻まれています。
乱暴な説明ですが、拍節とは、拍の中の細かく刻んだ音符のことです。

これを拍感を持って演奏する、との言い方もできます。
たとえば、2分音符を弾く時にも16分音符を細かく刻み、拍節を感じて弾きます。
ただ、ぼーっと伸ばしていると間延びした音になってしまうのは、拍感が弱いからとの言い方もします。


拍節について、わかりやすいのがチェンバロとピアノの違いです。
チェンバロは楽器の構造上、音の強弱が付けられない楽器です。

強拍は長めに弾くことによって、拍子とリズムを強調しています。
16音符の最初を長く丁寧に弾くことによって、強拍を表現しているのです。

 

同じ曲を、ピアノで弾いた場合です。

もちろん演奏者の違いはあります。
ピアノの名称は、発明されたときに、強弱が付けられるからと「ピアノフォルテ」と名付けられたことからきています。(現代では、発明時の「ピアノフォルテ」と「ピアノ」は別楽器として区別されています)

この概念を持った上で、メロディーと向き合った時、強拍・拍節をどのように扱うかによって、答えが見えてきます。

ところが、日本人は元来几帳面ですので、音価通りに弾こうとします。
この「音価」と「拍節」を混同してしまいがちです。
音価とは、時間通りにきっちり弾くことを指します。
上記のチェンバロ演奏は、弾きだしの最初が長くなっているので音価分きっちり弾いてはおりません。
ですが、とても音楽が生き生きとしています。

メトロノームで練習することも大事ですが、それでは機械的に弾いているだけです。
正確に弾くことの上に、音楽をすることを考えていきます。

メロディは必ず拍子に合わせて書いてあります。
まず基本は同じ速さで弾くことで、そこからメロディと拍と拍節の関係を読み解いていくのです。(もちろんこれだけではありませんが・・・)


結論として、強拍は、長く、硬い、重さをのせるなどの違いはあるけれど、必ず「強拍」として扱うことです。

このことを、ぜひ、指導でも取り入れていくことをお勧めします。


例えば、生徒が一番最初に躓く拍子は3拍子です。

興味深いのは、大抵の生徒が3拍子を4拍子に変化させてしまうことです。
鈴木ヴァイオリン指導曲集1巻にはバッハ作曲メヌエットが出てきますが、一小節毎に一拍休みを作ってしまいます。(レーレーレー、休み、シーラシソー、休み・・・といった具合です。)
この様子を見ていると、日本語が母音の言語であり4拍子または2拍子が主だからでしょう。

また、3拍子の曲で1拍目が強拍ですが、そこも生徒は指摘しないと平らに弾いてしまいます。

もう一度繰り返しますが、強拍は単純に強く弾くのではなく、その時その時に弾く内容によって変化します。
強くアクセントをつける、少し長めに弾く・・・弱拍を際立たせるためにも強拍を強調するとの考えかたもあるでしょう。
この辺りが「解釈」と呼ばれる範囲です。

 

以上は、私が先生より学んだことの上に推測も含まれています。
白状しますが、私は頭ではわかっていても、なかなか今でも上記のことはできていません。
それは、自分が日本人であり、そこを踏まえて楽器と付き合っていくことかと、自戒も込めて記しております。

言語が関係していることは、多くの人が気づいています。
そこでさらに、拍子と拍節について考えていくと、自分が演奏する上でも指導する場合でも、答えが見つけやすい思います。